みなさんは『肛門周囲膿瘍』という病気を聞いたことがありますか?私は3人の子どもを育てていますが、自分が外来で勤務するまで名前を聞いた事がありませんでした。そのため珍しい病気なのかなと思っていたのですが、実際に外来で勤務していると週に1人以上は新しい患者さんがみえるくらい、小さい子どもにとってはメジャーな病気です。

生後半年になる息子のお尻が赤く腫れて痛がっていて⋯
どこの病院に連れて行ったら良いんだろう?
私のように、小さい子どもを育てている方でもほとんどの人がこの病気の事を知らないのではないかと思います。小さい子どもを育てる親御さんに少しでもこの病気の事を知ってもらうことで、子どもが肛門周囲膿瘍になった時に適切な治療を受ける手助けになればと思い、この記事を書かせていただきます。
この記事では、小さい子どもの肛門周囲膿瘍・乳児痔瘻について解説します。
子どものおしりが赤く腫れてきたけど対処法が分からない!
そんな方はぜひこの記事を読んでいってください。
この記事を読んで分かる事
・病院に行く目安や何科にかかったら良いのか
・肛門周囲膿瘍になったらどんな治療をするのか
肛門周囲膿瘍・乳児痔瘻とは
赤ちゃんが下痢をしたりおむつかぶれができたりした後に多いのですが、肛門のまわりが赤く腫れて痛がるようになり、膿が溜まってぷくっと腫れてくることがあります。これを肛門周囲膿瘍と言います。肛門と直腸の境目には凹みがあり、この凹みからそこにある肛門腺に便などが入り込み感染をおこし、肛門の周囲の皮下に膿のたまり(膿瘍)ができた状態です。この膿瘍は大きくなると自然につぶれて膿が出たり、腫れている部分を切開して膿を出してしまうと一旦症状は落ち着きますが、腫れたり膿が出たりを繰り返す事も多いです。再発を繰り返して皮膚との間にトンネル状の管ができ、皮膚に小さな穴(瘻孔)が開いてしまう事があります。
これが痔瘻です。乳児にできるので乳児痔瘻と言います。もちろん新生児(0ヶ月児)にもできる事があります。小さいこどもには比較的良くみられる病気で決して珍しいものではありませんが、そのほとんどが男の子です。女の子ではほとんどみられないのが特徴です。
大人の痔瘻は手術をしないと治らない事が多いのですが、乳児痔瘻は1〜2歳までにほとんど治り再発しない事が多いです。
病院に連れて行く目安は?
肛門周囲膿瘍は、初期の段階ではニキビのように小さくプツッとしています。2〜3日経つと大きく腫れ上がるようになり、この頃になると痛みが伴ってきます。大きく腫れて中に膿がたまり、膿の逃げ場がなくなると破裂して中の膿が勝手に外に出てきます。
お尻に肛門周囲膿瘍ができたかなと思ったら、なるべく早くかかりつけの小児科に連れて行ってください。大きな処置が必要な場合、小児科から小児外科のある大きな病院に紹介されます。
症状が進行する前に受診できれば、早く治療にとりかかる事ができます。逆に腫れが大きくなり勝手に中の膿が出てきた場合は受診を急ぐ必要はありません。膿が出てくるとびっくりされると思います。「今すぐ病院に行ったほうが良いですか」との質問もよくされるのですが、膿が出てきた部分をきれいに洗い、翌日の日中小児科に受診していただいたら大丈夫です。
病院で何をするのか
それでは実際に病院受診した際、病院では何をするのかを解説していきたいと思います。
検査
肛門周囲膿瘍で病院を受診した場合、まずは問診を行います。
この時医師に伝えると良い情報は次の通りです
- いつからどんな症状があるのか
- 痛みはあるか
- 機嫌はどうか
- 排便の状況(排便の頻度、便に出血がついているか 等)

次に実際にお尻を診ます。この時、触って腫れの大きさや硬さ、触って痛がるかどうかなどを診ています。
また、必要時「肛門鏡」と言って細い筒のような器具を肛門に挿入し、肛門の内部に出血があるか、痔瘻化しているのか等を診ます。
これらの状況から医師は治療方針を決定します。
肛門の内側には静脈がたくさんあり、赤ちゃんの便が固く排便の時に力いっぱい力むと静脈が腫れます。繰り返す事で静脈から出血し、痔核ができやすくなります。そのため肛門周囲膿瘍や乳児痔核が疑われる場合、医師は排便の状況を問診で聞かせてもらいます。
処置
赤ちゃんの肛門周囲膿瘍・乳児痔瘻に対しては、腫瘍が大きい場合には腫れている部分を切開して膿を出します。腫れが比較的小さい場合は針でついて中の膿を出す事もあります。腫れが大きく、切る範囲も大きくなる場合は局所麻酔薬を使用し痛みを和らげた上で処置をします。
局所麻酔薬を使用しても全く痛みがなくなるわけではなく、また恐怖心もある事から泣き叫ぶ子どもが多いです。この時付き添いのお父さん・お母さんも不安になるとは思いますが、お子さんが動くと大変危ないため、固定やお子さんの気を逸らすお手伝いをしてもらえると良いかと思います。
切開した後は、腫れてしこりができている部分を圧迫して膿を出してあげて、きれいな水で洗浄し、抗生物質入りの軟膏を塗ってガーゼで保護する事がほとんどです。
切開して膿を排出すると痛みが落ち着く場合がほとんどなので、処置は痛くてかわいそうですがその後が楽になると思って、赤ちゃんと一緒に頑張る事が大切です。

どのように治療するか
肛門周囲膿瘍が大きい場合は切開して膿を排出しますが、小さい場合は抗生剤の内服で様子をみる場合もあります。抗生剤の内服にて感染が抑えられ、一時的に症状が軽快すれば切開の処置はせず、外来で経過を診ていきます。また、腫れが大きくなる途中でまだ切開するまでにも至っていない場合も抗生剤の内服にて様子を診ます。しかし、大きくなった肛門周囲膿瘍は小さくなっていく事はほとんどないため、いづれ切開の処置が必要となります。
切開を行った後は抗生剤を内服します。小さいお子さんや切開した傷が大きい場合などは、入院にて点滴で抗生剤を投与する事もあります。
最近では治療に漢方薬を使用する事が多くなってきました。肛門周囲が赤くなって化膿し痛みがある急性期には排膿散及湯、再発を繰り返したりしてなかなか治らない時や再発予防のためには十全大補湯という漢方薬を使用する事が多いです。両方の薬を併用する事もあります。味やにおいが独特なので、嫌がる赤ちゃんも多く飲ませるのが大変かもしれません。
1〜2歳まで待っても再発を繰り返し、痔瘻が残った場合等には手術が必要になります。
家でできること
肛門周囲膿瘍や乳児痔瘻は誰にでもできる可能性があります。お尻のくぼみにバイ菌が入り、普段の元気な状態ならバイ菌に負ける事はなくても、身体の抵抗力が弱まっていると細菌感染が起こりやすくなり肛門周囲膿瘍が発生する事があります。
赤ちゃんがおむつの中に排便をしたらなるべく早くきれいにする、お風呂でしっかりとお尻を洗う事などが肛門周囲膿瘍の予防になります。また、先述したように便秘も肛門周囲膿瘍や乳児痔瘻の原因になります。赤ちゃんの便秘に気づいたら早めに小児科に相談しましょう。
まとめ
肛門周囲膿瘍や乳児痔瘻はあまり聞き慣れない病気ですが、赤ちゃんには起こりやすい病気です。治療は痛みを伴うことがあり、見ている親は可哀想⋯と思う事もあるかもしれません。しかし適切な治療を受ける事できちんと治る病気ですので、親が正しい知識を身につけて安心して治療を受けられるようにしましょう。
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