
えっ!もしかして、飲み込んだ!?
小さなお子さんを育てていると、こんな冷や汗をかく瞬間が突然訪れますよね。
先日、私の働く病院にも5歳の男の子が「10円玉を飲み込んだかもしれない」と来院しました。
お母さんはとても不安そうで、「何をどうすればいいのか分からなくて…」と話されました。
誤飲は決して珍しいことではありません。
この記事では、医療の現場から見た「子どもの誤飲」に対する適切な対処法と、家庭での予防策について丁寧に解説します。
話の本題に入る前にまず、こんな時は自己判断せず必ず医療機関に相談・受診をしてください。
- ボタン電池、磁石を飲み込んだ
- 嘔吐、腹痛、元気がないなどの症状がある
- 飲み込んだ物が分からない・出てこない
- 飲み込んでから24時間以上経過しても排出されない
誤飲み気づいて、すぐに対処できれば大丈夫。
お子さんをしっかりと観察してすぐに病院に向かいましょう。
では、誤飲について詳しい話をしていきます。
誤飲とは? 食べ物じゃないものを「ごっくん」
誤飲(ごいん)とは、本来は飲み込んではいけないものを、子どもが誤って口に入れて飲み込んでしまうことです。
多くの場合、胃や腸に入ってしまいますが、中には消化管に詰まったり有害な化学反応を起こすものもあります。
よくある誤飲の例:
- 硬貨(1円玉・10円玉)
- ボタン電池
- 小さなおもちゃやパーツ
- マグネット
- 輪ゴムやビニール
- 乾燥剤・防カビ剤
誤飲したときの症状と観察ポイント
誤飲直後、必ずしも症状が出るとは限りません。
でも、次のような変化があった場合は注意が必要です。
- のどに違和感を訴える
- 何度もつばを飲み込む
- よだれが増える
- 嘔吐や腹痛
- 呼吸困難(気道につまりかけている場合)
呼吸ができていて、元気なら落ち着いて観察を!
飲み込んだ物によるリスクの違い
飲み込んだ物 | 危険度 | 対応 |
硬貨 | ★★☆ | レントゲンで位置確認。胃に入っていれば排出を観察する場合も。 |
ボタン電池 | ★★★ | 非常に危険。食道にとどまると30分程度で化学反応を起こし粘膜を損傷。 |
磁石(複数) | ★★★ | 磁力で腸が挟まれ壊死のリスク。2個以上の場合は特に危険。 |
プラスチック製のおもちゃ | ★★☆ | 尖っていなければ経過観察。症状があれば受診を。 |
薬や乾燥剤 | ★★★ | 誤って摂取すると中毒の危険。毒物センターまたは医療機関にすぐ連絡を。 |
誤飲時の正しい対応手順
- 安易な催吐(無理矢理吐かせる)は避ける
- 「苦痛なく飲み込んだもの」は「苦痛なく排泄される」 が基本
- 「食道異物」は消化管穿孔(穴があいてしまう)のリスク が高い(症状がある場合も多い)ので注意 !
- 無症状であればまず病院や救急ダイヤルに相談する
【硬貨】
- 大きい硬貨の場合、飲み込んだ後に喉に違和感が残る
- 胃まで入っていっている場合、自然に排出されるのを待つ事がほとんど
【ボタン電池】
- 無症状の事がほとんど
- 病院受診が必要(気づいたらすぐに)
- 電池が消化管内で一か所に留まると組織障害(傷ついたり穴があく)が起こる可能性がある。
内容が漏れだすまでの時間に影響するため、飲み込んだ電池の種類を確認!
水銀電池:4時間
アルカリマンガン電池、酸化銀電池:8時間
リチウム電池:2-3時間でも危険(大きい・電圧強い)
【薬物中毒】
こどもの薬物中毒の65%は「家庭内のもの」が原因。
圧倒的に頻度が高いのが「タバコ」、次いで「医薬品」や「化粧品」となる。
タバコ
- 嘔気、嘔吐、よだれ、顔面蒼白などが2-3時間以内に認められることがあるが、症状が出るのは15%程度。乳幼児のタバコ誤飲では、実際の誤飲量は少ない(嘔吐してしまう)
- 3cm以下の誤飲では無処置、胃洗浄もしない。4-5時間 経っても無症状であればまず心配いらない。
- 日本ではタバコ誤飲による死亡例の報告はない。
薬
- 年齢毎に誤飲しやすい剤形(薬の状態)が変わる
瓶入りの薬:乳児(1歳前)でも1/3の子は開けられる
PTP包装:1歳児でも半数の子は取り出せる
- 実際に症状が出る事は少ない(約18%)との報告あり
毒性が強く、治療が必要 | 少量の服用なら心配なし | 毒性が低く、服用しても処置は不要 |
除草剤、漂白剤、トイレ洗剤、 防虫剤(樟脳・ナフタレン)、殺虫剤 | 防虫剤(パラクロルベンゼン)、 乾燥剤(塩化カルシウム、生石灰)、 中性洗剤、インク | クレヨン、絵の具、口紅、石けん、 シャンプー、乾燥剤(シリカゲル)、 蚊取り線香、体温計の水銀、 マッチ |
引用:神戸こども初期急病センターhttps://www.med.kobe-u.ac.jp/pediat/pdf/yamamura14.pdf
家庭での対応
固形物の誤飲
- 何も症状がなければまずは慌てない。(病院や救急ダイヤルに連絡)
- 無理に吐かせようとしない。
- 食道胃物が疑われるとき(繰り返し吐く、胸を痛がる)などがあればすぐに病院へ。
レントゲン写真を撮る際に並べて使用するため、病院受診の際は可能であれば誤飲したものと「同じもの」を持って行く。
(異物が写真に写るかどうかが分かる)
医薬品や化粧品の誤飲(中毒の可能性あり)
- 気づいた時点ですぐに吐かせる(喉の奥を刺激)
- 全くの空腹だと吐かせにくいので、少量(10-100mL)の水を飲ませてから吐かせる
- 病院や救急ダイヤル、中毒情報センターなどに相談する
次のものは嘔吐させない!
酸性・アルカリ性洗剤、塩素系の漂白剤、 灯油・ガソリン、除光液、殺虫剤、シンナー、水を飲ませないタバコ
引用:神戸こども初期急病センターhttps://www.med.kobe-u.ac.jp/pediat/pdf/yamamura14.pdf
病院での治療
誤飲で病院を受診したら、医師は「何を飲み込んだのか」「飲み込んでからどれくらいの時間が経ったのか」「症状は?」等から治療方針を決定します。
すぐに取り出す必要のあるものの場合はマグネットチューブを使用して取り除いたり、内視鏡的に治療を行う場合や手術で摘出する場合があります。
しかし緊急度の低いものに関しては便と一緒に出てくるのを待つ事がほとんどです。
家庭でできること
異物を飲み込んでしまったら、異物が排出されるまでにできることがあるので紹介します。
胃内の異物を排出を促すのに適した姿勢

◎食後、右腕を下にして横向きに寝転び、そこからさらに20°程度お腹を床に近づけます。
この姿勢のまま20〜30分過ごします。
この姿勢だと食べた物と一緒に胃内の異物が腸へ流れやすくなり、便で排出されるのを助ける事ができます。
小さいお子さんだと難しいかもしれませんが、5歳くらいになれば動画等見ながら過ごす事ができるのではないかなと思います。
冒頭で紹介した男の子は、この姿勢を4日間続けて行ったら自然に便と一緒に10円玉が排出されました。
あまり一般の方には知られていない方法のようですが、医師の経験則上での治療であり効果的な方法です。
誤飲を防ぐ! 家庭でできる安全対策
子どもの手と口は好奇心でいっぱいです。家庭内での誤飲を防ぐためには環境づくりが重要です。
家庭でできる予防策
- 小物類は手の届かない引き出し・箱に保管
- 年の離れた兄姉のおもちゃは部屋を分けて管理
- 電池が入った機器の裏ぶたが外れないようにテープ止め
- 食事中のながら遊び・テレビはNG
おわりに
子どもの誤飲は、本当に一瞬の出来事です。
「ちゃんと見ていたつもりだったのに…」と悔やまれるお母さんもたくさんいらっしゃいます。
でも、それは決して親のせいではありません。
大切なのは、「その時どう対応できるか」と、「次に備えること」です。
この記事が、皆さんの安心と、笑顔あふれる育児の日々に役立てば幸いです。
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